出張シェフやレシピ作り、食を通して地域をつなぐ石川進之介さん

スーツケースにフライパンと包丁を入れて、日本と世界を繋ぎ歩く。
活動範囲は出張シェフから、芸能プロダクション所属まで幅広く。
進化をつづける石川進之介さん、登場!
旅するシェフ 石川進之介

「地域を元気にしたい」という思いから独立を決心

──最初に、自己紹介をお願いします

石川 私、石川進之介と申し上げます。職業は「出張シェフ」と言うことがあります。ですが、シェフという肩書きは、いろいろな世界、コミュニティーに入っていくための、コミュニケーションツールという部分もあるので、今は「石川進之介」自身がもっている潜在能力を試しているところというか……。たとえば、自分の声やルックスも売りにしています。

──良い声ですよね。私も昔から、進之介さんは、声がすごく良いと思っていました。初めてお目にかかったとき、「唐辛子とニンニクを使わないパスタ」を作って、世界を旅していましたね

石川 最初のころは「”food-trip”の出張パスタシェフ」として、キャリーバッグにフライパンと包丁入れて、活動してましたね。

──それは、いつごろスタートしましたか?

石川 2010年からなので、もう7年ですね。茨の道でした。会社勤めを辞めてからは、企業の看板で仕事が通るということはなかったので。

──独立する前はどんな職業だったのでしょう

石川 「トランジットジェネラルオフィス」という企業で、飲食店の運営から企画までしていました。ケータリングや、ビルのなかに飲食店をつくるプロデュースを3年してきましたね。たとえば、大阪の阪急百貨店メンズ館の”The Lobby BOOKSTORE & CAFE”というところで、本屋とカフェが一体化した店舗の立ち上げをしました。今でこそ、蔦屋家電さんがカフェと書店でレイアウトしたお店をやっていますが、もう9年ほど前なので、当時は珍しかったですね。それ以外には、ルイ・ヴィトンやコムデギャルソンといった、ハイエンドなアパレルブランドのコレクションでケータリングをさせてもらいました。草間彌生さんや川久保玲さんのような、アパレルのトップの方ともご一緒させていただき、懐かしく、良い思い出です。

トランジットジェネラルオフィスでは、ただ食を出すだけではなく、テーマやコンセプトに沿った提案をすることに、おもしろみを見つけました。「都会にエネルギーがある。だけど、このエネルギーを配給してくれる、川上はどこだ」と考えて、その上流は田舎だと考えました。そこから、日本の田舎を元気にするという理念ができて、独立へ向かいました。今でこそ、地域活性化という言葉をよく聞きますが、当時は「僕は地域を元気にしたいです」と言っても、理解はされづらかったですが。会社を辞めて、当時の少ない貯金で、気になる農家さんを訪ねていました。

──独立したのは、何歳の頃でしたか

石川 28歳ですね。独立して、最初のきっかけが、京都府京丹後市自治体の職員からのお声がけでした。「大阪や東京の飲食店の展開、アイデアやデザイン、やってきたことについてお話しください」とたのまれて、地域の経営者の方へセミナーを行いました。独立してまもない頃なのに、自治体から相手にしてもらえたのは、今でもお世話になっている税理士の吉田先生が、推薦してくださったのだと思います。縁の下の力持ちのように。京丹後の琴引き(ことびき)のお塩は、今でも使っている食材です。

生産者と企業の両面からよろこばれる立場に

石川 そのセミナーで、15名くらいの方の前で講師をさせていただいて。参加した方は農家をしていたり、お酒を造っていたり、京丹後に住んでいる方の生きた情報がそこに集まっていました。そこで気になる仕事をしている方とお話させてもらい、「ぜひ来てください」と言ってくれる方へ取材が始まっていきました。セミナー参加者の方が、取材対象になるとは想定外でしたが、行動することで、翌日には道ができあがってくるんだな、という経験ができました。そして、今度はそこで出会った素材をつかって、パスタをつくって、お礼と言うんでしょうか、縁をつないでいきました。

「こんなに良い食材があるよ」と聞いても、買ってくれる人はいません。ですが、食材をフライパンのなかでメイクすると、向こうから聞いてくれるんですよね。「これは、どこの食材ですか? どこのお塩ですか? どこの魚介ですか?」、そうやって聞いてもらえるだけで、うれしいことですよね。僕が話しただけだと、一方通行で流れちゃうところが、料理にすると向こうから返事がくる。それで、パスタを調理してきました。パスタは17歳から22歳ころまで、大学を中退する勢いで、朝から晩までどっぷりと修行していたので。

──1年間、手弁当でやられていたんでしたね

石川 1年間は手探りが続きました。でも、地域の行き来を繰り返すと、サポートしてくれる仲間が、なぜか、増えてくるわけですよね。違う地域に招かれたり、新聞やラジオから取材を受けたりして、次第に僕ひとりでは食材をさばけなくなって、ビジネスにするには流通が必要だと気づきました。そこで、パスタのレシピを書いたことがきっかけで、食品メーカーの株式会社SSKセールスが製造するパスタソースの中身に、自分の歩いて行った生産者の食材を使ってもらうようになりました。

──生産者としても「進之介さんに頼めば、新しいものができる」と期待できますね

石川 素材をもっていても、ひとりではさばききれない、だから企業と結ぶ。企業は素材をつかった、斬新なアイデアの商品を求めている。そんな生産者にも企業にも役に立てる、それが、僕が一番やりたいことです。

日本、世界を歩いて現地の食材と出会う

──日本はどれくらいの地域を歩いたのでしょうか?

石川 47都道府県のうち、45は歩きました。北海道には一番よく通っていて、素材の良さに鳥肌が立ちました。北海道には、憧れていた、食べたかった食材が転がっているんです。

──たとえば、北海道にはどんな食材が?

石川 もう、鮭ひとつとっても違います。秋になると、知床(しれとこ)に鮭を釣りに、現地の仲間と集まるんですけど、刺身がまったく東京では食べられないものです。たとえば、キングサーモン(マスノスケ)は魚の高さや太さが、非常にしっかりしています。それをさばいて、背⾻のあたりにある血腸(オスの鮭の中骨に沿って付いている血腸のこと)を使った「めふん」というユッケのような料理が、酒のつまみになるんです。東京までもってくると、におってダメですが、現地では新鮮だから、おいしいんです。北海道は4、5年通っていてもいまだに素材との出会いに、感動があります。市街地ではなく、地域のすぐそばでは見えないところまで歩いて行くことで、「こんなものがあるんだ、わぁ、すごいな」と料理を楽しくする要素と出会えます。

──日本だけでなく、世界にも行ってるそうですね

石川 7年間で、フィリピンやベトナムなどのアジアから、スペインやギリシアなどのヨーロッパまで、30ヵ国は旅してきました。

アメリカのバーニングマンという、物々交換で1週間くらい過ごすイベントにも参加しました。資本主義経済から抜け出して、砂漠にみんなでテントをつくって、何かを得たければ物々交換する。そんなギフト経済のなかで過ごすイベントです。で、僕はもう、料理をコミュニケーションツールにして、いろんなキャンピングを渡り歩きました。日本から伊江島の黒糖、小豆島の醤油、北海道の昆布、京都の日本酒をもっていき、テリヤキソースで焼き鳥を作ったのですが、それは大盛況でしたね。バーニングマンでは、日常で忘れてしまう、小さなことでも物々交換が成り立っていて、受け取ったものを素直に喜ぶことが大事だなと気づかせてもらえました。

──「ここなら、住んでみたいな」という国は、ありましたか

石川 海外なら、セルビア共和国ですね。グルテンフリーの勉強などで取材に行きましたが、ご縁があって大統領に日本の調味料を届けることができました。国の要人なので、厳しいセキュリティーチェックを受けて、面会しに行きます。僕が一番若造で、みんな50歳、60歳くらいの偉い方々。持ち物がたくさんあるし、厳しいセキュリティーで、帰らされるのではないかとドキドキしながら。大統領の秘書には「日本人の若者なにやってるんだ」みたいな目で見られて、人生でワキ汗を一番かきましたが、無事に日本の食材を大統領にお渡ししました。セルビア共和国は非常に親日な国で、馴染みました。

自分の心で、言葉を感じて、行動を

──今の若い世代に、メッセージがあれば、聞かせてほしいです

石川 仕事で19歳くらいの方とお付き合いするのですが、最初のころは「学ぶものはない」と思っていました。でも、もう36歳になったら、下の世代に対して上から目線ではなくて、ITやSNSなど「教えてください」とお願いしています。彼らの方がよくわかっている分野ですから。その一方で、パソコンで、頭で理解して、体験した気分になる人がすごく多いですよね。

僕の両親とか、つまり50代60代くらいの世代と、僕らの感覚は違います。ジェネレーションギャップが当然あっても、いいと思うんですよ。下の世代もまた、別の生き物のようで、それはそれで敬意を払うんですけど、行動力があって、アクションを起こすようになれば、これはもう、日本は元気になりますよ。「テレビがこう言ってた」のようなメディアを軸にせず、自分のハートというか、感じる部分を言葉にして、行動していってほしいなと思いますね。

──インタビューを締めくくるにあたって、一言お願いします

石川 夢は、飛行機を飛ばすことです!

──おぉ、すごいことですね!

石川 飛行機事業に、食を通して関わることですね。

──願えば、かないますよね

石川 願って、動くことですね。願うだけだと、寝ていても願うことになってしまうので、アクションを起こすことも大切です。

──素晴らしいです。ありがとうございました