授乳服でお母さんをラクにする!モーハウス代表の光畑由佳さん

「女性が楽しく生き生きした社会をつくりたい」授乳室がなくても気兼ねなく赤ちゃんに母乳をあげたい──育児の現場が産んだ授乳服・授乳インナー専門の有限会社モーハウス

お母さんたちがラクになる社会を目指す代表取締役の光畑由佳さん登場!

授乳できない不自然さがモーハウス誕生のキッカケ

──モーハウスをはじめたきっかけについて聞かせてください。

光畑 今でこそアパレルの会社ですが、もともとはパルコで働いていたんですね。展覧会の企画や編集をしていました。モーハウスをはじめたキッカケは結婚して子供を産んで、2人目の子が生後1ヶ月過ぎたころまでさかのぼります。

電車に乗っていたときに2人目の子供が泣きはじめてしまったんですね。そのときにまず感じたことが「子供が泣いて、まわりに迷惑をかけて申し訳ないな」ということでした。今から振り返ってみると、子供がかわいそうだと思わず、情けないと感じますが……。どうしても泣き止まず、その場で胸を出して授乳をすることしかできなかったんです。

冷静に考えれば電車から降りればよかったんですけど、頭がパニックになってしまい思わずそうしてしまったんですね。これは私だけでなく、他のお母さんも同じような経験はあると思います。

──冷静に考えられず、とっさに起こした行動だったんですね。

光畑 そのときに「これはおかしい」と思ったんですね。「母乳は自然だし健康的なこと。とてもラクなことだよ」と聞いていたのに、まったく違う状況がそこにありました。周りからは目を向けられるし、電車の中で胸を出すことは普通じゃありませんよね。かといって、ミルクを持ち歩けばいいのかというと、人間として本来あるべき姿とは違うはず。自然に授乳できる環境じゃないのは、どうしてなのかなと思っていました。

私がいた地域は市民活動が盛んで、男性トイレにおむつ替えシートがあるようなところでした。だから、私も同じような活動をすればよかったのかもしれませんが、自分にできることをやった方がいいのではないかと思って授乳服の仕事をはじめたんです。

──授乳服の仕事をはじめるキッカケは子育ての実体験にあったんですね。「モーハウス」という名前もそのころからですか?

光畑 実は「モーハウス」という名前は家を建てたときのプロジェクトネームからきています。25年前にプランを開始して、建てたのは23年前ですが「アーティストと一緒に作品をつくるような家を建てよう」というコンセプトでとりかかったんですね。個性的な家だったので、雑誌からの取材もくるだろうとプロジェクトに名前をつけたんです。それが「毛深くて柔らかい家」つまり”soft and hairy house”でした。「毛深い」の「毛」という字を「モー」と読んで「モーハウス」という名前です。しばらくその名前は宙に浮いていましたが、19年前の創業するときに「インパクトもあるし、いいね」ということで名前を流用しました。motherのmoと意味を付け替えて継続して使っています。

 

「社会と繋がる子育て」を目指している

──授乳服制作の活動を通して、社会に向けたメッセージはありますか。

光畑 「社会と繋がる子育て」という表現をよく使います。お母さんたちがもっと外に出やすい社会になっていいんじゃないかなと思うんですね。大学で授業をするようになったのですが、その授業の中で「子育てが大変だと思う人はいますか」という質問をして、手をあげてもらいました。すると、学生のほぼ100%が手をあげたんです。

もちろん、仕事との両立が大変といった理由などもあると思います。それもあるのですが、子供が生まれたら子供が優先順位第一位のベビーファーストになるという考え方や、一人前の大人に育てなくてはいけないというプレッシャーが原因だと思うんですね。でも、私はそうじゃないと思うんです。

──義務感が強いというか、責任が重すぎるということですね。

光畑 お母さんたちが好きなことをして、楽しんでいるから子供もうれしいと感じるはずなんです。大学生の中にも「母親からのプレッシャーが強い環境で育ったので、家に帰ると息が苦しくなる」という子もいるんですよ。お母さんたちがもっと楽しく、生き生きと暮らすためには外へ気兼ねなく出られることが必要だと思います。そのためのツールになると考えたのが授乳服でした。

──授乳服の役割は大きいですね……!

光畑 でも、授乳服って高いといわれるんです。金額にしたら1万円前後ですが、年収に関係なく値段が高いといわれます。だけど、これは気持ちの問題なんです。なぜかというと、粉ミルク1ヶ月分と同じくらいの値段なので、出せない金額ではまったくないはずなんですよね。

──授乳する期間が短いので「節約しなきゃ」と思って我慢してしまうのでしょうか。

光畑 ベビーファーストの考え方が大きいと思います。「授乳服は私のものだから、我慢しなくちゃ。その分、赤ちゃんのためになるものを買おう」という考え方ですね。その考え方がつづくと、生きるのが苦しくなってくるはずなんです。産後うつで死んでしまう人もいるほど。お母さんの死因で最も多いのが自殺といわれているんです。

お母さんが「子供がいても楽しくすごせるんだ」と実感できれば、生き方がかわって元気になるはずです。そして、洋服には気持ちを180度かえるパワーがあると私は思っています。

──実体験がある光畑さんの講義は学生にとって刺激的でしょうね。

光畑 筑波大学で講師をするとき、生物学の教授も一緒にいます。そこで話されていた内容が「生物は危険を感じると赤ちゃんを産まない」ということでした。「今の日本みたいだな」と思い、とても衝撃的でした。

──APEC(アジア太平洋経済協力)で日本代表スピーカーをされることもあるそうですね。

光畑 今回もペルーへ行ってきたんですよ。今回とは別ですが、前に出席した講演後に海外の人と談話していたときのことです。「日本は抱っこひもや出産支援、育休もあるじゃないか。なぜ子育てが安心してできないんだろうか」といわれたんですね。私もその通りだと思っていて、お母さんが外に出られないから社会的に認知されづらく、そのことが原因だと思うんです。肩身が狭いというか……。だから、授乳服でもっと外に出やすい社会にしていきたいです。

ホモルーデンスに共感。うれしい、楽しいことをやっていきたい

──仕事を通して「これはハードルが高いな」と感じることはありますか。

光畑 授乳服を取り扱っていることですね。一番売ることが難しい人たちがお客さんなので、大変だなと思います。「授乳服にお金をかけられない」という思い込みの強い人が多いので。一度でも使いはじめると便利さに気づいてもらえるんですけどね。

──逆に、楽しいなと思うことはありますか。

光畑 授乳服と出会ったお母さんが変わることですね。「ここに来るまで飛び降りたいと思うくらいつらかったけど、元気になった」という人もいるんです。

──失敗談について聞かせてください。

光畑 失敗はたくさんあります。「ビジネスモデル的にあり得ない」といわれることもあります。業界では一般的に、10年くらいファンになってもらうことを目指します。ですが、モーハウスの場合は授乳期間の関係で1年から2年程度でお客さんが離れていきます。ビジネスモデルとして、成り立ちづらいんです。ユニセフが推奨している授乳期間は2年ほどですが、早いと半年くらいで授乳をやめてしまう方もいます。免疫力が母子ともにつくので、母乳はきちんと与えた方がいいんですけどね。

授乳服と光畑さん

──ここまでのお話で光畑さんの人生で大切にしている「こだわり」がとても伝わってきました。最後の質問ですが、これから先、光畑さんはどんな「こだわり」をもって生きていきたいとお考えでしょうか。

光畑 「人間は遊ぶ動物である」という意味の「ホモルーデンス」という考え方があります。それがすごくいいな、と思っています。こういう仕事をしているとバリアや制約があったり、なかなか広がっていかないんですね。その中でも変わっていく人を見ると本当にうれしいんです。遊ぶような「うれしい」「楽しい」という気持ちを持てることだけをやっていきたいと思っています。

売れようと戦略を立てていくのではなく、よいものをつくることにこだわりたいです。授乳だけに特化していくつもりはありません。たとえば、乳がん手術を受けた方が敏感な肌に優しくてちょうどよいという理由で、授乳用下着のモーブラを使ってくれていて……それが、とてもうれしいんですね。授乳服をきっかけに、その延長線上でうれしくて楽しいと感じることをいろいろやりたいなと思います。