日本発看護教育in タイ&ヴェトナム 輿石光希さん

「私は一人一人が幸せだと感じられるお手伝いをしたいと思っています」

輿石光希さんの笑顔で語る姿を見るだけで、支えてくれる仲間がたくさんいることがよくわかります。

日本・ベトナム・タイで看護の教育事業を行うジョインハンズの代表輿石さんに事業内容や日本の課題、人生のこだわりについて伺いました。

■死にかけた体験が看護師を目指すきっかけになった
──今の仕事はいつ頃から始めたのでしょうか。

輿石 ジョインハンズを始めて今年で5年目になります。副看護部長を経て、独立しました。

──独立前は病院で働いていたのですね。前職ではどのような仕事をしていたのでしょうか。

輿石 業務が多岐に渡っていたので、様々なことを勉強させてもらいました。ジョインハンズの事業になっている教育はもちろん、病院の新築移転に伴う設計にも関わりました。カリキュラムやモデリングなど、教育の土台を全部変えることにも携わり「私にはもっといろいろな事が出来るな」と思いました。

──多方面に挑戦したいという思いが独立の後押しだったのですね。

輿石 実は、独立する時には計画が何もありませんでした。ですが、独立するという話を聞いて友達が仕事をいくつも紹介してくれました。その中から最初に選んだ仕事が訪問看護ステーション立ち上げ事業の骨格を作ることでした。

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※クリニックの風景

──具体的な仕事内容はどのようなものだったのでしょうか。

輿石 立ち上げに必要な書類が何か教えたり、教育プログラムの内容に組み込むべきことを一緒に考えたりしました。その後、5つのステーションを立ち上げて、全部で6つの立ち上げに関わりました。

──ジョインハンズという名前の由来は何かありますか。

輿石 「輪になる」や「つながる」という意味を込めてジョインハンズ(※手を握り合う)としました。ご縁を大切にしたいと思っています。

──看護師を目指した理由はありますか。

輿石 小学校5年生の時がきっかけになっていると思います。全身やけどで死にかけたんです。「ちゃんと生きて何かしなさい」と神様が生き返してくれたと思った影響が大きいですね。

──奇跡的な体験ですね…。

輿石 やけどの範囲が全体の20%以上だったので、「いつ死んでもおかしくない」と両親は言われていたそうです。ケロイド体質の影響で手術を3回はしましたね。それでも生きていたということに意味を感じて、看護師になろうと思いました。私の人生の大きな転機です。

──ご両親からの影響はあったのでしょうか。

輿石 私は父がとても大好きです。規律に厳しい性格でしたが、芯の通った考え方をする人でした。良いものは良いが、だめなものはだめというタイプの人です。仲間は多かったですが、父を嫌う人も多かったと思います。議員を長年続けていたので、日頃から人のために動いていました。町のために、隣の人のためにと貢献する父を見て育っているので、似たところはありますね。

──お母様の影響はどうでしょう。

輿石 母はほわっとした穏やかな人でした。地域に貢献してきたこともあり、亡くなったときには警察の方から表彰状を頂きました。両親とも亡くなったあとに周りの方から聞かされる話がたくさんありました。私も「お母さんはこんな人だったよ」と地域の方から子どもたちへ伝えてもらえるような生き方をしたいと思っています。

■行き詰まりは打開策を考えて前へ進む
──輿石さんの人生観や仕事について伺いたいと思います。嬉しいときはどんなときでしょうか。

輿石 設立に関わったステーションの経営がうまく軌道に乗る、利用者が増えた報告をもらったときですね。利用した方から喜んでもらえたという報告をもらえることもあって、現場の嬉しい声を聞いた時は良かったなと思います。一般向けにセミナーもしていて、「非常によく分かりました」とか「役に立ちます」とか、お役に立てたとわかるときが一番うれしいなと思いますね。

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※看護大学への実習人形の寄贈および授業風景

──失敗したなと感じるときはありましたか。

輿石 自分の意見を押し付け過ぎてしまったときですね。例えば、AとBという意見があったとします。こちらからは「Aの方が良いですね」と伝えていて、最初はお客さまも「Aにしましょう」と言います。ですが、話が進むに連れて「実はAという意見は賛成できません」という擦れ違いが起こります。そんなときに私がコンサルタントとしての立場から自分の意見を押しつけ過ぎてはいけないとおもっています。

──苦心することも多いと思いますが、何を頼りにしていますか。

輿石 ひたすら前に進むことです。つらい時や苦しい時は結構ありますが、「今、何が起きているのか」と考えるようにしています。今あるところに焦点を当てて、行動するべきことを考える。心配や困っている所に焦点をあてず、どうすれば打開できるかを考えて、前に進むようにしています。

──前進する哲学ですね。尊敬しているのはどんな人でしょうか。

輿石 マザーテレサかなと思います。彼女の言葉一つ一つに重みがあります。

──「平和は笑顔から生まれる」という言葉がよく知られていますよね。

輿石 本当に心が動かされる言葉がいくつもあります。セミナーでお話するときも最後に必ず彼女の言葉を使います。

■日本にいたときの問題意識がタイとベトナムに活動拠点を広げた
──今の社会で問題に感じていることなどありますか。

輿石 私は看護師なので、高齢化社会に問題を感じます。2025年問題と言われますが、医療費が増大するなど問題が指摘されています。今まで一生懸命働いてきた人たちが、安心して過ごせる時代にならないことは非常に問題だと思っています。

──国が解決に舵を取るべき大きな問題ですね。

輿石 国の方針もありますが、私に出来る事が何かないかという視点でも考えています。例えば、訪問看護ステーションの立ち上げは、高齢者が自宅で過ごせるシステムになっています。これからもっと充実していかなくてはいけないと思っています。それと免許を持っているけど看護師として働いていない人が70万人いると言われています。

──70万人…!とても大きな数字ですね。

輿石 潜在看護師と言いますが、年々増えています。たくさんの看護師がとても疲弊していたり、楽しく仕事が出来ていないかったりと問題があります。

──労働条件が過酷ということが原因となっているのでしょうか。

輿石 労働条件もあります。あとは復職が難しいということですね。電子カルテやパソコンが導入されていますが、その技術についていけないので復職できないということがあります。日本看護協会が専門看護師や認定看護師という制度を導入しており、専門性がとても高くなっています。例えば、産休で1年間くらい現場にいないとついていけなくなります。

──高齢者が増えていく一方で看護師が減っていくというのはとても大きな問題ですね。

輿石 非常に大きな問題です。復職支援セミナーなども開かれていますが、新しい事にトライすることに一歩踏み出せないということがあるのだと思います。

──輿石さんの海外での活動は問題意識と関係しているのでしょうか。

輿石 タイとベトナムに行って活動をしています。タイでは歯磨き指導を行っています。村人や子ども達の健康調査を行った結果、歯科医療に問題があることがわかりました。歯を磨く習慣がなく、虫歯が出来たら治療は抜歯だけという状態でした。全部で9つの小学校で150人ほど歯科検診を行いしました。糖尿病の患者も多く、そちらの健康指導も行っています。

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※タイでの活動風景。村人の健康診断・訪問診療

──ベトナムでの活動はどうでしょうか。

輿石 いい人材を育てて日本で活躍できるように支援しています。先ほどお話したように、日本では看護師や介護士がとても疲弊しています。施設はあるけれど、働く人が足りないという状態です。ですので、ベトナムで看護大学と提携して日本で活躍してもらう看護師の教育カリキュラムを作りました。もう間もなく始まるところです。

──日本では若い人たちが先行きを不安に思っています。会社で働くか、自分で会社を起こすか迷っている人も多いようです。何かメッセージを頂けますか。

輿石 私も独立をする時にはたくさん迷いましたし、進む先も決まっていないことが多かったです。それでも一番大切なことは腹を決めることでした。実行すべきことをやり遂げると腹を決めること。会社に入る、独立するはどちらでもいいと思います。腹を決めて一生懸命進めば、考え方がプラス思考になるし、発想力も湧いてきます。腹を決めて取り組んだ結果なら失敗しても経験は絶対に宝となります。私は今日まで「出会った人たちに私のできることを大胆に提供する」と決めて進んできました。その結果、よい引き寄せができました。

■インタビューを終えて
「つらいことですか…ダイエットができない事くらいかな。タイやベトナムっておいしい食事がたくさんあるんですよ!」

明るく振る舞う輿石さんは会うだけで元気が出る不思議な力を感じる方でした。

厳しい状況の看護師をサポートするために、日本だけでなくタイやベトナムに活動を広げた輿石さんの活動力が伝わってくるインタビューでした。